整形外科医oceanaidのブログ

中堅整形外科医の視点でいろいろ書いていきます。

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膝の痛みの原因となる「膝の靱帯損傷」について整形外科医が解説してみました

こんにちは、中堅整形外科医oceanaidです。

今回は膝の痛みの原因となる「膝の靱帯損傷」についてお話していきたいと思います。

 

脚の痛みについてはこちら

 

膝の靱帯損傷とは?

膝の主な靱帯には内側側副靱帯外側側副靱帯前十字靱帯後十字靱帯などがあります。

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全ての靱帯は外傷によって損傷を受ける可能性があり、

受傷形態や症状などは各靱帯に応じて変わってきます。

 

そこで、

それぞれの靭帯損傷について解説していきたいと思います。

 

ちなみに、

後述する「内反」、「外反」とは下記のイラストのような状態です。

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内側側副靱帯損傷

内側側副靱帯損傷とは?

膝の靱帯損傷のなかで最も頻度が高く、

膝に大きな外反力(膝が内に入る力)が加わることで発症します。

 

ラグビー、サッカー、柔道などの接触・衝突するスポーツやスキーなどで受傷することが多いです。

 

症状は?

内側側副靱帯は膝の内側にありますので、

損傷すると同部位の痛みが出現します。

また、膝を外反させると激痛が出現します。

 

診断は?

外反ストレステストが有用です。

膝を20~30度程度曲げた状態で膝の外反を強制すると、

損傷していない膝と比較し関節の弛みを認めます。

 

その他、MRIは損傷部の描出に有用です。

 

治療は?

内側側副靱帯単独損傷であれば、

不安定性は小さいので支柱付サポーターなどの装具療法を選択します。

 

具体的には、サポーターを装着した上での歩行練習、関節可動域訓練、大腿四頭筋(太ももの前面の筋肉)訓練などを早期から行い、

4~8週程度でスポーツ復帰を目指します。

 

また、後述する十字靱帯損傷を伴った複合靱帯損傷の場合はしばしば手術療法を要することもあります。

(それでも内側側副靱帯は保存的に治療し、内側側副靱帯が治癒した後に十字靱帯の手術を行うケースが多いです。)

 

 

外側側副靱帯損傷

外側側副靱帯損傷とは?

サッカーやラグビーなどの接触で、

膝に大きな内反力(膝が外に向く力)が加わることで発症します。

 

重度の損傷の場合は前十字靭帯損傷を合併します。

 

症状は?

外側側副靱帯は膝の外側にありますので、

損傷すると同部位の痛みが出現します。

また、膝を内反させると激痛が出現します。

 

診断は?

内反ストレステストが有用です。

膝を20~30度程度曲げた状態で膝の内反を強制すると、

損傷していない膝と比較し関節の弛みを認めます。

 

 

その他、MRIは損傷部の描出に有用です。

 

治療は?

外側側副靱帯単独損傷であれば、内側側副靱帯単独損傷同様に保存療法を選択します。

 

前十字靱帯損傷を伴った複合靱帯損傷の場合は前十字靭帯と併せて手術療法を要します。

 

 

前十字靱帯損傷

前十字靱帯損傷とは?

バスケットボールなどのスポーツで飛び上がった後着地した時、

走っていて急に方向を変えようとしたとき、

スキーで軸足の膝が前方に引き出されるような力がかかった時に、

前十字靱帯は単独で損傷しやすいです。

 

その際、40~60%に半月板損傷を合併すると言われています。

 

その他にも、ラグビー、サッカー、柔道などで膝に大きな外反力がかかった場合も発症することがあります。

 

女性に発症しやすく、

バスケットボールにおける発症の男女比は1:4と報告されています。

 

症状は?

受傷時は激痛とともにブツッという断裂音を自覚することが多いです。

その後数時間以内に膝関節が強く腫れます。(関節内に血液が溜まるため)

 

日数が経過すると、やがては痛みが軽減しますが、

スポーツ中に膝くずれ(ガクッと膝が折れる)を起こして支障が出てきます。

 

長期間放置した場合は、変形性膝関節症に発展します。

 

診断は?

不安定性を評価する徒手検査が有用です。

  • ラックマンテスト

膝を軽く曲げ、検者が一方の手で膝の上を押さえた状態で、脛を前方に引き出すようにストレスを加えると、断裂がある場合は前方に引き出される。

 

  • ピボット-シフトテスト

膝を40度曲げた状態から、外反ストレスをかけて脛を内側に捻じりながら膝を伸ばしていくと、突然膝がガクッと前方に亜脱臼する。

 

その他には膝の不安定性を定量的に測定できる器具を用いたり、

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MRIにて損傷部を確認できます。

 

治療は?

前十字靱帯損傷の自然治癒は稀です。

 

スポーツ活動をあまり望まない中高年の損傷であれば保存療法を選択します。

その際は装具装着や筋力増強訓練が中心となります。

 

一方、スポーツ活動を望む若い方は手術療法(前十字靱帯再建術)を選択します。

 

自分の脚から採取したハムストリング腱(太ももの腱)や骨付き膝蓋腱などを用いて再建するのが一般的です。

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後十字靱帯損傷

後十字靱帯損傷とは?

前十字靱帯損傷と異なり、ほとんどの場合は脛の前面を打撲することで発症します。

具体的には、

バイク事故や乗用車の追突事故(ダッシュボードで脛を打撲する)、

ラグビー、柔道などで前方から衝突した際などに発症しやすいです。

 

症状は?

脛の前面に打撲痕を認め、高度な膝の腫れ(血液貯留のため)、脛を後方に押し込んだ際の激痛が出現します。

 

膝の裏側に皮下出血(青あざ)を認めることもあります。

通常、前十字靱帯損傷ほど膝の機能障害を来すことは少ないです。

 

診断は?

前十字靱帯損傷同様、不安定性を評価する徒手検査が有用です。

  • 後方引き出しテスト

膝を90°曲げた状態で脛前面を後方に押し込むと、通常の位置よりも後方に脛が移動する。

 

また、MRIにて損傷部を確認できます。

 

治療は?

前十字靱帯損傷ほどではないにしても自然治癒は少ないと言われていますが、

前十字靱帯損傷と異なり、不安定感が残存することは少ないため保存療法が第一選択です。

(ただし、MRIなどで合併損傷がないことを確認することが前提です。)

 

その内容としては、

大腿四頭筋(太ももの前面の筋肉)訓練が中心です。

ただし、靱帯修復の妨げにならないよう、

膝を曲げた状態でのハムストリング(太ももの後面の筋肉)強化訓練は3か月間禁止します。

 

保存療法を続けても、スポーツ活動や日常生活に支障がある場合は手術療法を選択することもあります。

 

その際は前十字靱帯損傷と同様に、

自分の脚から採取したハムストリング腱(太ももの腱)や骨付き膝蓋腱などを用いて再建する手術方法(後十字靱帯再建術)が一般的です。

 

以上、今回は「膝の靱帯損傷」ついてのお話でした。